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松井・吉村両氏が投票結果を「重く受け止める」「再挑戦しない」と言明した理由 (藤井聡)

「公明賛成」にも関わらず「二回連続・否決」された重大な意味

松井一郎大阪市長(左)は任期満了で政界引退を表明。吉村洋文大阪府知事は「大阪都構想の住民投票はもう二度とやらない」と明言。

 

 大阪都構想=大阪市廃止の住民投票が、2015年に引き続いて、「反対多数」となりました。

 一度だけでも重大な意味を持つ直接住民投票ですが、それが一度ならず二度までも同じ結果が示されたということの意味はより一層重大なものとなります

 事実、松井市長は「まさに大阪市民のみなさんの民意。しっかり受け止め」る、「重く受け止めたい」と言明され、吉村知事も同じく「この大阪市民の判断を率直に受け止めたい」「政治家として挑戦することはもうありません。」とおっしゃっています。

https://www.iza.ne.jp/kiji/politics/news/201101/plt20110123360027-n1.html

 ここでは、松井市長・吉村知事のご両名が「重く受け止める」とおっしゃった今回の「二度目の否決という住民投票結果」が、如何に重大な意味を持つのかについて、ここで改めて考えてみたいと思います。

1)二回連続での否決は、「真の民意が否決だ」という事を強烈に示している

 まず第一に申し上げるべきことは、5年前の前回に引き続いて「2回連続」で、大阪市廃止が否決されたということの意味は、実に重大だ、という点です。

 例えば、PCR検査では、「偽陰性」なる問題があって、一回の検査で「陰性」となったからといって陰性を確定することは避けるべきだと言われています。しかし、二回連続で「陰性」となった場合「偽陰性」である可能性は、確率論から言ってほとんどなくなります。

 それと同じで、二回連続「否決=ネガティブ」となった今回の住民投票を通して、大阪市民の「真の民意」が「否決=ネガティブ」だということ、つまり「大阪市存続こそが真の民意である」ということを「確定診断」してよい状況になったと言うこともできるのです。

 しかも、結果は前回に引き続いて僅差となったとは言え、前回よりも賛否差が拡大する結果となったという点も、この「診断」の信憑性を高める補足的事実と言うこともできるでしょう。

2)「公明党が反対から賛成に回った」にも関わらず得られた否決の意味は大きい

 しかも今回は、

 「公明党が全面賛成に回り、公明票が実に多く、反対から賛成に回った。」

という、賛成派にとって途轍もなく有利な条件があったのです。それにもかかわらず、反対多数となったことはとりわけ重大な意味があります。

 もともと2015年当時、公明支持者は、その3割弱しか賛成していませんでした。しかし今回は、約半数が賛成に回っています。

 今回の投票者の内、6%強が公明票だということがNHKの出口調査から示されていますから、それに基づいて計算しますと、2万弱の公明票が、賛成から反対に回ったことになります(総投票数約140万票×公明支持層割合6%強×公明支持層の反対から賛成への変化割合2割強=2万弱)。

 「賛成か反対か」の住民投票では、一人の有権者が反対から賛成に回るだけで、反対票が1票減り賛成票が1票増えることで「2票」も縮まります。

 ということは、今回、公明党が党として反対から賛成にまわったことで、反対よりも賛成の方が相対的に4万程度の票を伸ばすことになったわけです。

 もともと1万票しか反対派はリードしていなかった中、賛成派は差し引き4万票もの票を「ゲット」したわけで、それはもうそれだけで賛成多数になっても不思議ではない条件下にあったわけです。

 今回の否決は、それを押しのけ、前回よりもさらに票差を拡大しつつ得られたわけですから、「真の民意」が大阪市廃止に対してネガティブ、つまり「大阪市存続を望む」というものである確度はより一層高いと言えるわけです。

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藤井 聡

ふじい さとし

1968年、奈良県生まれ。京都大学大学院工学研究科教授(都市社会工学専攻)。京都大学工学部卒、同大学院修了後、同大学助教授、イエテボリ大学心理学科研究員、東京工業大学助教授、教授等を経て、2009年より現職。また、11年より京都大学レジリエンス実践ユニット長、12年より18年まで安倍内閣・内閣官房参与(防災減災ニューディール担当)、18年よりカールスタッド大学客員教授、ならびに『表現者クライテリオン』編集長。文部科学大臣表彰、日本学術振興会賞等、受賞多数。専門は公共政策論。著書に『経済レジリエンス宣言』(日本評論社)、『国民所得を80万円増やす経済政策』『「10%消費税」が日本経済を破壊する』『〈凡庸〉という悪魔』(共に晶文社)、『プラグマティズムの作法』(技術評論社)、『社会的ジレンマの処方箋』(ナカニシヤ出版)、『大衆社会の処方箋』『国土学』(共に北樹出版)、『令和日本・再生計画』(小学館新書)、MMTによる令和「新」経済論: 現代貨幣理論の真実(晶文社)など多数。

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  • 藤井 聡
  • 2020.10.12